ジャーナル

2018年2月25日、ITの中心地シリコンバレーにて、留学生として学ぶ意欲ある学生を対象に、「留学生の価値~企業が留学生に求めるもの」というテーマで対談が行われた。登壇したのは、SoftBank Telecom Americaの田中義昭氏と楽天の横内あすか氏。グローバルに活躍している2人が留学生にアドバイスを贈った。(モデレーター:イシン株式会社 西中 大史 氏)

グローバルで活躍している日本人の共通項とは

-まずは、お二人の自己紹介をお願いします。

【田中】
ソフトバンク・テレコム・アメリカの田中義昭です。私は、シリコンバレーだけでなく全米、カナダ、イスラエルを含め、日本以外の国のスタートアップとのパートナーシップを構築し、次の30年、300年を見据えた新規事業を作っていくという仕事をしています。

もともとはマツダという車の会社にいたのですが、それから国際通信の会社に移りました。そこからはずっと通信関係の仕事をしています。固定回線からモバイルへ、モバイルからインターネットへ、現在ではIoT、AI、ロボットと大きな分野を中心に人々のライフスタイル、働き方、産業そのものを革新していくようなプロダクト、サービスを生み出すような仕事、簡単に言うと新規事業開発(Business Development)の仕事に従事しています。

会社名に「テレコム」とついているように、20年くらいは通信の仕事に従事していたわけですが、今はもう通信とは少し違うところ、「Beyond Telecom, Beyond Japan」をテーマに新しい産業を作る仕事をしていますね。

【横内】
楽天株式会社の横内あすかです。まず、データベースのエンジニアとして仕事をしています。楽天のメインサービスは「楽天市場」ですね。皆さんがお客さまとして買い物をすると、その買い物の情報は高速の情報処理をする大きなデータベースの中にデータが入っていきます。このデータベースを開発して運用するのが私の仕事です。

この仕事をずっと続けてきて、楽天には沢山のサービスがあり、かつグローバル化もしなくてはならない、ということでアメリカに来ました。データベースのマネージャーを続けつつ、関連する採用活動も行っています。私は日本で生まれ育って日本の大学、日本の大学院に行きましたので、留学経験はないのですが、2006年に新卒採用で楽天に入社して、こちらに来てちょうど4年になります。

-グローバルで活躍している日本人の共通項とは、どういった特徴でしょうか?

【田中】
「グローバル」というのは決してアメリカに限らないと思います。ソフトバンクはイギリスのボーダフォンを買収したので、私はボーダフォンの日本法人でも働いていました。台湾のスマートフォンメーカー、HTCの日本法人立ち上げにも関わっていました。グローバル=アメリカではなく、それぞれの国にそれぞれの仕事のスタイルがあります。

グローバルに活躍する人の共通項は「こんにゃく」みたいな感じではないかと思います。異文化を理解し、その懐に入り込み、信頼感を得る。シリコンバレーでは信頼感が生まれるとビジネスがスムーズに進むのですが、そうはいっても、なかなか信頼感というものは生まれてこないですよね。こんにゃく、あるいはゼリーのような人というのは、星形の型に入れれば星の形になり、四角い型に入れれば四角くなります。つまり、柔軟性のある人が活躍できるということだと思います。

【横内】
私もその「柔軟性」という部分にはとても共感しますね。ある人を外から見たとして、「この人はいったいどういう人なのかな?」、それがわからないということは、日本人同士でもあることです。シリコンバレーでは「英語」という共通語はある。けれども一緒に経験した時間がなかったり、そもそもバックグラウンドや背負っているカルチャーが違ったりすると、共感する要素はほとんどない中で仕事していかなくてはなりません。その中で柔軟性というものはすごく大事です。

また、自分が考えていることを、「私はこう考えている、ロジカルにひとつひとつ考えた結果、これが答えだと思います」ということをきちんと説明できる人。それが間違っていてもいいんです。それが自分をわかってもらうということですし、皆でお互いに考えを共感し合うという目的にとっても大切なことなのです。

グローバルにビジネス展開していく可能性を感じ、楽天に入社

-横内さんはキャリアとしてエンジニアを選ばれていますが、その楽しさ、魅力とは何でしょうか?

【横内】
大学では物理を専攻していまして、物理が大好き。理科が大好き。そして英語は大嫌い。大学院では、もともと天文が大好きだったので東北大学の天文学の修士号を取りました。それを終えたとき、「学問はもうしっかりやった。今度はビジネスに行きたい」と思って就職活動を始めたんですね。

そのとき、楽天が「東北楽天ゴールデンイーグルスをやるぞ」と仙台にやってきました。「楽天とはどういう会社なんだろう」と思って、これからグローバルに伸びていく、羽ばたいていく会社でビジネスをやりたいと思いました。幸いそのまま入ることになったんですが、エンジニアになるというのは、全然考えてなかったんですね。大学の専攻の中ではプログラミングも必要ですから、やれなくはない。ただ、本来はすごく頭のいい人たちがやる大変な仕事だと思っていたんです。どちらかというと、ビジネスを大きくしていく営業を志望していました。

結果、入社後はシステム開発部隊のなかでも当時一番忙しかったデータベース開発運用に配属され、データベースエンジニアとしてキャリアをスタートしました。社員数は今の1/10くらいで、ビジネスは常に拡大。エンジニアとして1年目から多くのプロジェクトに参加することとなりました。

今はマネージャーですが、いくつものコアビジネスのデータベースを現場からコントロールしつつも、プロジェクト管理や部下育成もしています。いわばプレイングマネージャーですね。既存ビジネスのグローバル化と、アメリカ・ヨーロッパ地区のビジネスをシステムからサポートしているわけですが、次世代のシステム構成検討といったストラテジックな業務も行います。ビジネス展開の基盤となるシステムを創れるのが、エンジニアとしての醍醐味の一つかと思います。

ソフトバンク孫正義のビジョンをどう実現していくか

-ソフトバンクでは孫正義社長がビジョンを掲げてどんどん新しいことを推し進めていく中で、田中さんは実際に中でどういう動きをしてその要望に応えていらっしゃるんでしょうか?

【田中】
もともとソフトバンクはパソコンのソフトウェアのディストリビューターから始まり、インターネットのブロードバンド回線を提供するビジネスを始めて通信業界に参入しました。その後、固定電話、携帯電話の事業へと拡大していき、グローバルに多くの企業を抱えるインターネットグループへと成長してきました。3~4年前まで、とてもドメスティックな会社だったんです。

私のキャリアの中で最もグローバルだった時は、今を除くと、ボーダフォンにいたときですね。周りはほとんどイギリス人でした。そして、その超ドメスティックな会社のソフトバンクがボーダフォンを買収して携帯事業をを手がけるようになりました。

孫社長は本当に仕事が好きなんですね。24時間ずっと考えて考えて、かなり無茶な時間でも、思いついたらすぐ行動する(笑)。そうはいっても、本人の中では芯はぶれてなく、一貫しているんです。ただ、こちらが理解できないだけであって。「300年ビジョン」とか「30年ビジョン」というものを作ったりしていますね。4~5年前くらいのビジョンにはAIもロボットもIoTも含まれていました。どれも、今になって来ているものですよね。「確かにこの人天才だな、スティーブ・ジョブズなみだな」と思いますよ。

どんな会社にもビジョナリスト……たいていはCEOですね。それからハッカー、CTOというか技術を見る人、そしてビジネスデベロップメントを行うハスラー、この3人が必要なんです。そしてビジョナリストのビジョンに共感しないといけない。共感しない人はどんどん去っていく。「共感する」って実はかなりつらいことなんですよ。「こんなことできるんですか?」「これ、1を100倍にしろということではないですか?」「こんなことできるわけないですよ」と思ってしまう。でも、そのできないことにあえてチャレンジして、できるようにするにはどうすればいいのか、それを考える。「ゴールを決めて、そこで何ができるかを考える」。自分でできないことだったら、できる人を紹介してもらう。そんなふうにみんなヒーヒー言いながら……でもビジョンには共感しているので、社内の従業員調査では「経営者のビジョンに共感しているか?」についてはいつも数値が高いですね。

グローバル企業が留学生に求めるもの

-グローバル企業が留学生に求める特性というのは、どういったところにあるのでしょうか?

【横内】
私は留学をしていないので、自分の経験から留学生に通じる部分を変換してみます。もちろん皆さん英語は上手だと思いますのでそこは十分にアピールしてください。そして何よりも、皆さん留学を始めたばかりのころ、1年目はすごく大変だったと思うんです。環境に慣れていない、友達もまだいない。英語は伝わらないし授業についていけない……。実は、日本語が通じる会社に入ったとしても、留学生活で経験したことが入社してからも同じように経験すると思っていた方がいいと思います。皆さん新人さんですから、会社で飛び交っている言葉の意味がわからない。教えてもらわないと仕事ができない。ですから、日本の大学を卒業した同期の人たちより、その経験の分だけ強いと思うのです。

それに、若くて留学して人よりも苦労している、柔軟性や吸収力になって、先輩や周りの人たちに教えを請うということに長けているのではないかと思いますね。これは、先輩や周囲の人からとても求められることなんです。私の場合は、当初はエンジニアになるつもりがなかったので入ってからすごく大変でした。毎日怒られながら仕事していました。そして今、自分が教える、採用する側となって新人さんと向き合うと、素直な人……つまり自分ができないことや教えてもらわなくてはいけないことを素直に認めて、自分からキャッチアップしていくことがきちんと素直にできる人は、信頼を得られるのも早いですし、結果的に会社に貢献していく有力な人材になっていくと思います。

【田中】
皆さん留学生ですから、英語は大丈夫だと思いますが、仕事で使うとなるとスピード感が違いますね。また、グローバルに活躍するとなると、ネットワーキングのためのパーティーやコミュニティづくりが必要になります。文化的な背景を持った話題で話すことが多くなります。「英語を話せます」だけですと仕事にならない、ということを認識してください。

シリコンバレーならではの体験を自らの言葉で語ってほしい

【田中】
皆さんの中でGoogle HomeやAlexaを使っている、あるいはNetflixを見ている、Spotifyを聴いている、Bitcoinを少しでも買ってみたり、という人はいますか? また、ロボットやIoTという言葉を少しでも知っている人は? シリコンバレーという環境で生活していれば、大学生であってもこうした環境の中にどっぷり、当たり前のように浸っていますし、プログラミングも子供の頃から教育されています。そしてすぐ隣にはGoogleやFacebookもある。せっかくシリコンバレーにいるわけですから、シリコンバレーの価値を知っていてほしいと思うんです。エンジニアリング視点でなくてもいい。ユーザー経験として、まず体験してみて、使ってみて「Google Homeはこうだった」「NetflixはAIを使って私の好きな番組をサジェストしてくれた」と。

そういう経験こそすごく説得力があると思うんです。今、IT企業の上の人はそうしたことにとても興味があるけれども、分からない。ですから「実はSpotifyはAIエンジンの塊なんですよ。ずっと好きな曲が流れていて、『これを聴いているならこのミュージシャンも好きですよね』『このアルバムも好きでしょう』ということをディープラーニングを使って行っているんです」というようにキュレーションして分かりやすく説明する。シリコンバレーにいた、という価値を出すと、他の留学生とまた違ってくるのかと思います。今の生活の中でできるようなことでいいので、自分の体験、価値を自分ならではの言葉で語れるようになってほしいですね。

ベンチャーはスピード感、チャレンジさせてくれることが魅力

-最後に、急成長していくベンチャー企業で働く魅力を教えてください。

【横内】
まずはスピード感ですね。トラディショナルな、たとえば銀行や商社と比べると、全く違うスピード感で動いていますし、挑戦させてもらえる範囲が大きいです。三木谷社長自身スピードがとっても速い。とにかく「1ヶ月前には何をしていたっけ?」というぐらいです。ですから、経験の幅が広くなりますね。

私は1年目から、実際にエンドユーザーやクライアント企業さんにサービス提供している本番システムの構成変更などをさせてもらいました。データベースに問題が発生すれば影響範囲はそのサービス広範囲となることが多く、その損失といったインパクトは多大なものになります。そういった重責担う業務を早くから任せてもらえる。「自分を早く成長させたい」という思いを実現できることが魅力ですね。

【田中】
今、ITを使っていない企業はないですよね。銀行にもFintechというものがある。その中で、楽天やソフトバンク、あるいはユニクロといった強烈なビジョンを持った経営者のいるところでは、明日何が起こるかわかりません。今日言ったことと明日言ってることが全く違う、なんてよくあること。ITの会社というのは、そうしたスピード感を楽しむ、「また面白いことをやらせてくれた」というところが魅力です。そして、皆さんなによりもデジタルネイティブなわけです。もう最初からフィーチャーフォンよりもAndroidやiPhoneを使ったITの体験が身についていて、自然にワクワクできるんです。自分が進むと世界も進んでいく。ITを使って自分で世界を変えていく。世界を変えられる中心人物でいられる、それがIT業界の魅力だと思います。

【田中 義昭 氏】
ソフトバンクが米国携帯事業者 Sprint を買収したのに伴い、2014年に渡米。以降、新規事業開発、グローバルパートナー開発を担う。年間500〜600社のスタートアップ、VC、CVC,政府関係者等起業のエコシステムパートナーに会い、ソフトバンクとのパートナー企画、ビジネス企画を行う。現在のフォーカス分野やIoT、AI、Robotを中心に、これらのテクノロジーを活用したビジネス企画を日米の架け橋となって企画立案推進を行う。

【横内 あすか 氏】
神奈川県横浜市出身。東北大学大学院にて修士過程修了後、2006年に楽天に入社。ショッピングモール楽天市場を始めとする大小のECサービスや、楽天ID・ポイント等のグループ企業をまたがる基幹系サービスのデータベースをメインにシステム開発・運用に携わる。ビジネス拡大に伴ったシステム移行プロジェクトをエンジニア、及びプロジェクトリーダーとして遂行することを多く経験。2014年よりアメリカ/サンフランシスコに拠点を移し、現在はRakuten USAにて日本とアメリカの両国のマネージャー職を行っており、日本ターゲットだけでなくアメリカを始めとするグローバルサービスを担当している。

【(モデレーター)西中 大史 氏】
早稲田大学卒業後、株式会社三井住友銀行に入社し、大企業向けのファイナンスを担当。その後、カリフォルニア大学アーバイン校への留学を経て、Ishin USA,Incに入社。現在はイシン株式会社にて事業開発を担当しながら、スタンフォード大学客員研究員も務めている。

新たなビジネスの創造を目指す人たちの働く環境
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