コラム

留学を経験した上で、どのような企業を志せばよいのか? 日本のITベンチャー3社と県庁職員のセッションでは、「日本のITベンチャーの魅力」「進路の選び方」をテーマに、留学生への具体的なアドバイスが寄せられた。

Speaker
エンライズコーポレーション 代表取締役CEO 吾郷 克洋 氏
福岡県庁 福岡県サンフランシスコ事務所長 徳永 博昭 氏
シンクスマイル 代表取締役 新子明希 氏
アイドマ・ホールディングス 代表取締役 三浦 陽平 氏

Moderator
アクティビスタ 代表取締役 河合 克仁 氏)

未経験からエンジニアを育成。ITで地域の課題を解決

-皆様の自己紹介と、IT企業で働く魅力についてお聞きしていきます。まずは吾郷さんからお願いします。

【吾郷】
エンライズコーポレーション代表取締役CEOの吾郷克洋です。私たちの会社は5年目で、社員は200名ほどいるのですが、ほぼ全員がエンジニア未経験で採用した人たちです。そのうち女性が3~4割くらいですね。「全国から毎年50名ずつ未経験者をITエンジニアに育てよう」というテーマで採用しています。

なぜ未経験からITエンジニアとして育成するかといいますと、何をやるにしても自分の専門性を持たないといけないということ。「働き方の自由度」だとか「改革」と言われていますけれども、それは専門性を持たないとなかなか難しいことだと思います。留学生の皆さんは、英語が身についている。では、その次に何を身につけるのか?ということになります。それはITが良いのではないかと考えます。

また、ベンチャーで働く魅力というと、社長と近いところで仕事をする機会が多いということです。「将来自分がやりたいこと」に対してチャンスが多いし、身につくものも多いのではないかと思っています。ボードメンバーに近いところにいることによって自分の意見が通りやすくなりますし、これが ITベンチャー企業の魅力だと思いますね。

また当社では新規事業として、東北最大級のコワーキングスペースを4月に開設します。地域の課題を解決するため、商売を繁盛させるため、そしてコストを削減するためにもITを導入します。「全ての業態×IT」というテーマが成立します。

ちなみに、私自身は25歳で独立しましたが、20年ほど前に新入社員としてソフトバンクグループに入りました。その風土や空気感にはすごい刺激を受けまして、「自分でもできるんじゃないか」と思って飛び出して独立したわけです。それはちょっと甘かったですけれども(笑)、20年かけて今は何が大事だったのかよくわかりますね。

ITシステムを使えば、もっと営業は効率化できる

-次に三浦さん、日本でもともと行われていた、アナログ式の対面営業がどのようにITで変化していったのでしょうか?

【三浦】
アイドマ・ホールディングス代表取締役の三浦陽平です。日本のさまざまな中小ベンチャー企業のコンサルティングをやっています。日本には、潜在的に働きたいと思っている主婦などの層がおよそ700万人程度いるといわれています。そして、380万社の日本の中小企業の7割が営業の課題を抱えている。この課題を、営業×ITで解決するのが事業テーマです。

もともと、日本にはかなりアナログで営業する文化がありました。何か新規で取引をする場合には、見込み顧客リストを用意してダイレクトメールを送ったり、電話をしたりして、商談の機会を作って営業すると。当社は3000社ぐらいのお手伝いをしているわけですが、当社もアナログな営業が主流でした。

そこで、当社自身の効率を高めていくために、まずシステムを開発しました。そして今度はそのシステムをお客様の方に提供するということを始めたわけです。だんだんとお客様から「もっとこういう使い方ができないか」「もっとこうすればシステムを効果的に使えるんだけど」といったご要望の声をいただくようになりました。

ですから、ITを使って何かビジネスを始めるならば、プロトタイプでもいいからまず作る。これをお客様にご利用いただいて、フィードバックをもとに改良していくことが大切だと思いますね。当社が6年前に開発したシステムは、現在は1500社ぐらいのお客様にご利用いただくようになってきています。PDCAサイクルを開発の中で回していくことが、重要だと思います。

経営者は「幸せの専門家」だ

-新子さんはシンクスマイルを経営していく中で、どのようにITを活用しているのですか?

【新子】
株式会社シンクスマイル代表取締役の新子明希です。私は25年前、17歳の時にアメリカを一周しました。アメリカを一周していたときに、MITオープンキャンパスである起業家が「経営者というのは幸せの専門家だ」という話をされたんですね。これがものすごく心に響きました。経営者というのは幸せを設計していくものだと。ですから、今でも私のライフテーマは「幸せの専門家」です。

 私は19歳で起業してもう26年目なんですが、はじめはただ仕入れては売る、仕入れては売る、ということだけをやっていたんですね。生き延びるのに必死でしたが、おかげさまで15年ほど事業は黒字を続けることができて、何でも売れるということがわかった。そこで、このスキルこそお金に変えられると。とはいっても、売れるからこそ「何を売るか」「何のために売るのか」ということが大事なのではないかと、そこで初めて経営理念というものに出会ったわけです。ですから私は、ここにいる皆さんよりも世の中のことを考え始めたのがだいぶ遅かったかもしれないですね。そして、ITというものがあって、これは概念ではなくツールだということがわかってきた。ではそのツールを使ってどういう価値を提供していくかということを考え始めて、今の「ありがとうを可視化する」というサービスにたどり着きました。

福岡県がシリコンバレーに拠点を置く理由

-徳永さん、福岡県がシリコンバレーに拠点を置く理由はなんでしょうか?

【徳永】
福岡県庁福岡県サンフランシスコ事務所長の徳永博昭です。「皆さん、地元のことがどのくらい好きですか?」という三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行っている「地元愛ランキング(市民のプライド・ラインキング)」という調査がありまして、2017年は福岡市が3つの項目で1位だったんです。福岡の人たちの地元に対する愛情は非常に強い。ですが、福岡に戻ってきたいと思ったときに仕事がないと戻って来られないですよね。自分で起業するという方法もありますけれども、必ず成功するという保証はないですから、東京や大阪といった大都市圏で働いて生活しているという人も多い。

ただ、できれば福岡の人は地元に戻って生活したいという人はとても多い。そこで、我々がどうサポートできるかというと、その1つの手法として企業を誘致して働き口を作るということになります。最近ですとLINE Fukuokaの例がありまして、現在900人くらいの方が雇用されています。福岡から一度は出て行った人たちも、地元の学生さんたちも、福岡で働くことができる環境づくりができたわけです。

-他の県の人たちは、北米には来ていないのですか?

【徳永】
もともと北米地域には、10ぐらいの都道府県の事務所というのがあったんです。ですが、このベイエリアにはもう福岡県の事務所だけです。あとはシアトルに兵庫神戸市、東海岸には神奈川県のオフィスがありますね。JETRO(日本貿易振興機構)に職員さんを出向させる形で、それでも10ぐらいの自治体の職員がいるのではないでしょうか。ただ、そのためにはニーズがないといけない。2003年に当時の麻生渡知事が「シリコンシーベルト構想」を打ち出しまして、当時はシリコンバレーという場所の知名度がすごく上がってきていた。最先端の場所に事務所を置こう、ということだったわけです。

最初に入社した会社から大きな影響を受ける

-企業の8~9割が3年で成果が出なければ撤退してしまうといいます。学生さんの立場に立ってみて、どのような観点で就職口を探すべきでしょうか?

【新子】
実は、どこを選んでも正解でなんです。一つだけ確かなことは、人は最初に入った会社の影響を必ず受けるということです。ですから、企業の理念やバリュー、ビジョンをまず読んでみて、「この影響だったら受けてもいいな」と思う会社を選ぶことです。それだけではなく、社長の語るビジョンを聞いて、それから実際に現場で働いているスタッフさんの声をよく聞いてみる。社長が「社員は家族です」と言っているのに、実際の社員は死んだ魚のような目をして働いていたら、それはどこかに嘘があるわけですね。そうしたギャップを見るということだと思います。ギャップがあまりなくて、かつここの影響だったら受けてもいい、と思えるならばどこの企業でも良いと思います。

そして、入ってからは選択した分野で一番を取ることですね。一番を取れれば可能性が広がりますし、支援者が増えます。その中でまた選択肢が広がり、次のところでもまた一番を取って……と自分の選択肢を増やしていきましょう。

【三浦】
私の経営自体もこの考えに基づいているのですが、日本は少子高齢化で、世界の中で最も速く人口が減っています。グローバルに見ても先進国ではどんどん人口が減っていく。そうしたトレンドに合ったビジネスモデルというのが重要になってきていると思いますね。これまでの、どんどん人口が増えて経済が伸びていく中で作られるビジネスモデルから、人口が減って経済が縮小していく中で生まれてくるビジネスモデルになっていく。その影響は、20年後30年後に大きなインパクトになってくるわけです。「人口が減る中でこれは可能性がありそうなビジネスとは何か」。もし、私がこれから就職するとすれば、こうした観点で企業を見ますね。

自分に合った、自分のやりたいことができるか

-徳永さんは異色の経歴で、ミュージシャンから転職して県庁に入っていますね。

【徳永】
私自身はIT企業で働いているわけではありませんが、選ぶ基準があるとすれば本当はとても単純なことで、「自分がやりたいことをやらせてくれる会社なのか」。これがベストの選択だと思います。皆さん、自分の得意なところ、そうでないところがあると思います。実は私、今この仕事をやっていてすごく楽しいんですね。なぜかといえば、私はとても飽きっぽいので、なかなか一つのことを長く続けられないんです。ではなぜ県の仕事が楽しいかといえば、仕事が本当にさまざまだからです。たとえば、私が入庁して最初は土木事務所の配属になりました。そこでは用地交渉の分野で、家の立ち退き交渉から、空港の仕事にも関わりました。県ではおよそ3~5年で異動がありますが、現在は福岡県内企業の海外進出の支援やこちらの企業さんの誘致、観光客の誘致もしますし、農産物の輸出にも関わります。学生の留学支援もあります。これだけ幅があると、飽きっぽい私には向いている職業だと思っているんですね。自分に合った、自分のやりたいことをやらせてくれる会社をチョイスするというのがベストなんじゃないかと思います。

【吾郷】
私からは、少し観点を変えて、留学、つまり英語を活かすという点についてお話しします。留学経験をアピールして採用してもらえる会社がいいのではないかと思いますね。自分がずっと頑張ってきたことをベースにして、ITなどプラスアルファのことをさせてくれる会社や職種がいいと思います。「IT企業に入社してみたいけれども、技術を勉強したわけではない」としても、実際はほとんどの会社がポテンシャル採用をしているわけです。技術というものは後からいくらでも身につけられるもの。やる気を見せて、それを買ってくれる会社、そして人を育てていこう、という会社がやはり大切だと思います。

あと、人は出会う人、会社に大きく影響されますから、まずはさまざまなところに顔を出して活動してみるといいと思いますね。振り返って、私「自分が今なぜこの会社をやっているんだろう。この仕事をやっているんだろう」と考えてみると、やはりアルバイトを含めて出会った人たちに刺激を受けて一歩を踏み出しているんですね。その意味では、今、私たちはまさにこのイベントという出会いの場に来ているので、活用してくださいね。

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Speaker Profile

【吾郷 克洋 氏】

1975年、広島県生まれ。大学を卒業後、東京のベンチャー企業に入社、2001年にITベンチャー企業の立ち上げに携わる。2012年にITインフラサービスに特化した株式会社エンライズコーポレーションを設立、代表取締役CEOに就任。2013年に新たなIT人財育成プログラム「enrise Academy」を立ち上げ、4年で120名の未経験者をITエンジニアとして採用し、育成を行う。現在はそのノウハウを同業界向けに提供し、ITエンジニアの価値向上に向けて力を注いでいる。近年はサービス開発にも注力し、IT資格取得の為のEラーニング「techhub」、ITエンジニアのシェアリング事業「enrise Cloud」、格安名刺印刷WEBサービス「名刺良品」を開発し展開。また、「地方創生×IT」をテーマに、シェアオフィス・コワーキングスペース事業にも参入し、2018年春に仙台にて一棟ビルをリノベーションした東北最大級のスペースとなる「enspace」をオープン予定。
https://www.enrise-corp.co.jp

【新子 明希 氏】

1972年、大阪生まれ。17歳の時にアメリカ大陸一周した際に、「経営者は幸せの専門家である」と知り、自分もそうなろうと高校卒業後、19歳で教材販売の個人代理店として起業。その後、2007年にI・コンサルティング株式会社設立。2011年に株式会社シンクスマイルに社名変更し、現在に至る。現在は、「したことない。をへらす」という経営理念のもと、世界に認められるアイデアカンパニーを目指し、WEB広告サイトの運営・店舗販促ツール導入、日本初のお試しサイト「torakore(トラコレ)」の運営、リピーターファン創造ツール「Ziriri(ジリリ)」の販売など、ユニークなサービスを提供している。理念浸透・人材育成・インナーブランディングツール「ホメログ」はおよそ1000社に導入され、2017年3月からはホメログをさらに進化させたシステム「RECOG(レコグ)」の販売を開始して注目を集めている。
https://5smile.com

【三浦 陽平 氏】

1983年、広島県生まれ。大学卒業後、環境系ベンチャー企業に入社。その後、人材系ベンチャー企業に転職。約60名の部署で、トップ営業マンとして活躍。2008年に株式会社アイドマ・ホールディングスを設立し、代表取締役に就任。現在は、業務支援事業(Business Solution) 、営業コンサルティング事業を中心に経営者に代わり、営業戦略の立案、マーケティング活動を実施し、お客様のサービスが売れる仕組みを構築。延べ80,000件以上の企画検証したデータベースを基にお客様に最適な営業戦略をプランニングしている。グループ会社に、人材開発・研修スクールを運営するアイドマ・トレーニング(12年2月設立)、「物語TV」運営のアイドマ・メディア(13年1月)、ミャンマーでオフショア開発事業を展開するアイドマ・ミャンマー(13年11月)がある。
http://www.aidma-hd.jp

【徳永 博昭 氏】

1978年、大分県生まれ。高校卒業後に歌手を目指し福岡へ。20歳の時に自主製作でCDを出すも、歌をビジネスとしてやっていくことに疑問を感じ、20歳で方向転換。2000年に福岡県庁に入庁し、土木事務所での用地交渉、空港課での路線誘致、大阪事務所での企業誘致、人事課での組織担当などを経験し、2016年より現職。シリコンバレーでは、福岡県内企業の北米進出支援、北米企業の誘致、福岡への観光客誘致、福岡県産農林水産物の北米輸出、姉妹都市交流支援、学生の海外研修支援などを行っている。

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Moderator Profile

【河合 克仁 氏】

1982年、愛知県豊橋市生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、人材教育コンサルティング会社に入社。営業・コンサルタントとして、経営者からの紹介を預かり続ける営業スタイルで成果を残し、歴代記録の6倍を上回る営業記録更新、社長賞、MVPなどの社内表彰も多数。 2014年4月、同社を退社。約1年間の事業考案期間を経て、2015年3月に“縁ある人に喜んでもらいたい!”をポリシーにした、株式会社アクティビスタを設立。 理念・ビジョン再構築支援から、ビジョン共感型の人材採用・育成支援など、“人と組織の成長支援行う。また、シリコンバレー、インド、アフリカなどのスタディーツアーなども主催し、イノベーションが創発されるきっかけづくりにも励む。筑波大学非常勤講師(キャリア教育担当)、内閣府地方創生推進事務局地域活性化伝道師。

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